藻場班(元アワビ班)の研究成果(2015年度中間報告)

アワビ類の生産に関する従来の研究では、コンブ目の大型褐藻類からなる海藻群落(海中林)が、生息場として、また餌料の供給源として、重要と考えられてきました。ところが、近年の研究からは、アワビ類の浮遊幼生は無節サンゴモ群落に着底し、成長に伴い主要な餌料を変えながら生息場を移動し、最終的に海中林にたどり着くということ、つまり、生活史初期には海中林よりもむしろその周囲に存在する小型海藻類の群落のほうが重要な生息場であることが示されています。また「成長に伴う生息場変化」はアワビ類に限られたものではなく、アワビ類の競合種や捕食者もまた、成長に伴い生息場を変化させている可能性があります。もしそうであるならば、アワビ類との種間関係は、従来想定されているよりも、季節的・空間的に多様であるはずだと考えられますが、そのような視点からの研究はこれまで行われておりません。

アワビ類の再生産の過程を理解し、アワビ類資源の持続的な利用方法を考えるためには、成貝が利用する海中林だけに注目するのも、またアワビ類の生態だけに注目して研究を進めるのも、実は不十分だと考えられます。これまで「岩礁藻場」としておおまかに、あるいは「海中林」など一部の生息場に代表させて説明されてきた岩礁藻場を「様々な海藻群落(個生態系)から構成される岩礁藻場(複合生態系)」として捉えつつ、アワビ類やそれらと同所的に生息する他の生物について、生活史を通じた生息場利用様式を検討することが必要です。以上のようなことから、物質循環、砂泥の流入、生物の出入りなどにも着目し始めており、アワビ類の生態ではなく、沿岸域の生態系全体を研究対象とする、ということです。

このような研究視点の拡大・多様化により、「アワビ班」は、前年度末より「藻場班」と名称を改めて、より広い視点、より細かい視点、より複合的な視点から日本各地での藻場生態系の研究を進めています。調査地と各調査地での調査内容については、2014年度から変化はありません。

研究トピックス

(1)亜熱帯域の海草海藻混生藻場
~混生する海藻類の季節消長に合わせて、餌料選好性の異なる巻貝類が棲み分けを行う

石垣島名蔵湾の干潟では、海草類が周年を通じて比較的安定した藻場を形成しています。この干潟では、春になると、砂泥底に散在するサンゴ礫などを基質として小型の海藻類が繁茂しはじめます。つまり、春の短期間にのみ「海草藻場内に小さな海藻群落が混じった混生藻場」(海草海藻混生藻場)が発達するのです(図1)。このような藻場の大きな季節的変化に合わせて、底生動物の種組成がどのように変化するのか、調べることにしました。

 図1.石垣島名蔵湾の海草群落(左)2014年10月(右)2015年4月

 小型海藻類が特に増加した4月に、海草類に海藻類が多く混生する地点(以降、海藻多地点)と、海藻類の混生量が小さい地点(以降、海藻少地点)の2地点において採集を行いました。小型海藻類が多かった4月には、海藻多地点において、海藻少地点に比べて多様な巻貝類種が生息している傾向が見られ、海草上と混生する海藻上では優占する巻貝類種は異なっていました。混生する海藻上の優占巻貝種は、海藻類がほとんど混生しなかった7月と10月には海草上に生息していたことから、これらの巻貝種は、海藻類の加入・成長、あるいは枯死・流出にあわせて海草と海藻のあいだを移動していると考えています。

餌料選好性を調べる実験からは、海草上で優占する巻貝類種は、混生する海藻類の藻体よりも海草の枯死部を選好すること、一方、混生する海藻上で優占する巻貝類種の餌料選好性は明瞭ではないことがわかりました。生物量が増大する春季に、優占巻貝類種間での、混成する海藻上と海草上を利用した棲み分けが成立するのは、優占する巻貝類種間で餌料選好性が異なるためである、と考えられます。

関連研究業績:
中本ほか「石垣島名蔵湾の海草海藻混生藻場における小型巻貝類の分布と棲み分け機構」日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会.

(2)甲殻類
~「成長に伴う生息場変化」の原因は成長することそのもの?そして新たな展開

相模湾長井沿岸の岩礁藻場に生息するヨツハモガニは、着底直後の数か月を、水深2-4 mのテングサなどの小型紅藻類の群落内で過ごし、その後、低潮線付近のヒジキ群落に生息するようになります。このような「成長に伴う生息場変化」が、ヨツハモガニの藻体選好性が成長に伴い変化するために起こるのではないかと考えて、異なる2種類の海藻片を選択させる実験を様々な条件で行いました。我々の予想に反して、ヨツハモガニは性別、成長段階、生息経験の違いを問わず、常にヒジキ藻体を選好することが明らかになり(図2)、海藻類藻体に対する選好性は生息場変化に関係がないことがわかりました。一方、藻体を選択した個体の定位場所の観察からは、ヒジキを選択した場合を除いて、ほとんどの大型個体は海藻藻体上には定位することができないことがわかりました。以上のことから、ヨツハモガニの「成長に伴う生息場変化」のきっかけは、大型化した個体が細かく分岐した小型紅藻類の藻体上(=群落内の主要なマイクロハビタットの一つ)を利用できなくなること、であると考えられます。

 図2.ヒジキ藻体片に定位したヨツハモガニ未成熟個体

また、本年度から、ヨコエビ類ヤドカリ類に関する研究がスタートしました。いずれも、かねてより藻場生態系の重要なメンバーと目されていながら、これまでの基礎研究が乏しく、生態系の中での役割が十分には理解されていないグループです。岩礁藻場という「複合生態系」を舞台に、生息場間のつながりに関する新たな知見が得られることを期待しています。

関連研究業績:
大土ほか「相模湾長井沿岸に生息するヨツハモガニ(狭義)の海藻類藻体に対する選好性とその成長に伴う変化」平成28年度日本水産学会春季大会.
大土ほか「相模湾長井沿岸に生息するヨツハモガニの海藻類藻体に対する選好性とマイクロハビタット利用様式」日本甲殻類学会.

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